前回書きました通り、ジョン・ウー監督の『男たちの挽歌』、ハードな男泣きの美学に溢れたストーリーに、香港映画お得意の独創的なアクションを銃撃戦のフォーマットで行うという新機軸。
そして、ジョン・ウー監督のスタイリッシュな演出。こんなの今まで観たことありませんでした。
『男たちの挽歌』最後に観たのは数年前ですが、その時点で俳優さんたちの髪型・ファッションの古臭さや、演技の若干の野暮ったさは感じたものの全体のテンポや、語り草となっているチョウ・ユンファ演じるマークの飲食店殴り込みのシーンの衝撃度は全く衰えていませんでした。
とにかく『男たちの挽歌』よりジョン・ウー監督の新作は必ず観るようになりました。
1本1本観た時の思い出や感想を述べていると『でがらし魂』級に長くなりますので泣く泣くやめときますが、知る人ぞ知る香港映画の鬼才から、ハリウッドで『M:I-2』などの大作を撮る世界的なメジャー監督にまでなっていくのをリアルタイムで観られたのは映画ファンとしては幸せであったといえます。
男同士の友情を時にはコートを風ではためかせ、時にはスローモーションで二丁拳銃の乱発で、またあるときは寄りのアップで、ポイントに白鳩を飛ばしながら描くスタイルは沢山の模倣作品を生み出しましたが、誰も彼に並ぶ者はいませんでした。
そんなジョン・ウー監督が、ビッグ・バジェットで三国志の「赤壁の戦い」を製作するという話を聞いたのはかなり前でした。
実はワタシは若干の不安を抱いていました。
香港映画は狭い空間を利用したアクションが抜群に上手いのですが、だだっ広い空間でのアクションはメリハリが付けにくく不得手なところがあります。ジャッキー様にしても、サハラ砂漠を舞台にした『プロジェクト・イーグル』は苦労されているのが伺えます。
今回の『レッド・クリフ』は、広大な中国大陸を舞台に大勢のエキストラが戦闘シーンを繰り広げ、そこにドラマを盛り込む為、冗漫に流れる危険性があると感じていました。
ともあれ観ました『レッド・クリフ PartⅠ』。
全編だけで3時間弱。
ワタシ的にはカットしていいな、と思うくだりはいくつかありましたが、面白く観ました。
三国志というお話は、男たちをカッコよく描くことに長けたウー監督とは相性が良く、小説・コミックで慣れ親しんだ関羽・張飛・趙雲たちの活躍にシビれ、カッコよさに燃えました。
アクションシーンは時代的にカンフー映画の舞台になる清の時代ではない為、甲冑を着て重そうな槍や剣を振り回すのが主で、スピーディーさは従来のカンフー映画に一歩譲るものの、三国志の世界観を壊さない程度にワイヤーを使った、キャラを引き立たせるアクションが組み立てられており、楽しめました。
これは、ウー監督初めての二丁拳銃が出ない代表作になりそうです。
しかし、プチ三国志ファンのワタシには不満が!
金城武さん演じる諸葛孔明。ワタシの知ってる孔明は、痒いところにまで策を行き届かせる天才でしたが、本作の孔明は重要な局面でもあまり発言をせずボーっと突っ立てるだけ。「孔明!そこアンタがおいしいトコ取れるシチュエーションでしょ!?何故に気の効いた事のひとつも言わんで立ってるのよ!?」と何度か心の中で孔明にダメ出しをしました。
そして劉備玄徳。困った顔してるだけで、リーダーたる威厳が無く、あれでは健康診断で毎回胃がひっかかる中間管理職です。部下から「劉備課長、いい人なんだけどねー。気が弱いから全部背負い込んじゃって。また草履編んでるわよ。部下に仕事を任せられない人なのよねー。」とか言われてそうで、名だたる武将が命を捨てて仕えるオーラが皆無でした。
でもトータル的には合格です。PartⅡも観ずにはおれません。劉備も孔明もPartⅡではきっと活躍してくれることでしょう。
ちなみに帰り道、「さしづめ、どうぶつ谷は『ペット・クリフ』だな。いや、ペットとは限らないけど」とか、「勝負パンツは『レッド・ブリーフ』」とかオヤジギャグを一生懸命考えるワタシは孔明並みの頭脳が欲しいと思うのでした。
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